私と松屋

リーマンショック後の就職氷河期、大学四年生だった僕は周りの友達が次々内定を取り大学生活の余暇を謳歌する最中ひとり就職活動もろくにせず別のことを考えていた。

ビジネスを立ち上げ一発当ててやろう。

そんな事を思いつき、周りの友人と距離をとり得意げにプログラムの勉強をしたり、怪しげな交流会に参加したりしていた。
その頃はお金もなく週に1、2日シフトを入れるアルバイトが収入源でいろいろとケチって生活していた。
無事に就職先が見つからないまま大学を卒業後、周りの友人との距離は離れる一方でこの頃付き合っていた彼女にも振られてしまった。
漠然とした不安や孤独を感じていたが根拠のない自信でそれを押し殺して生きていた。
そんなある日、プラグラミングスクールの帰り道に腹ペコだった僕が何気なく立ち寄ったのはたしか神田の松屋。
財布には大事そうに入った一枚の千円札。
注文したのはオリジナルカレーだった。
ひとくちふたくち、食べれば食べるほど次々に口に放り込みたくなるあのスパイスの効いた色黒の濃厚ルー。
福神漬けをコリコリと噛み締めながら一緒にたべるのも良い。
必死に頬張りながら思った。

僕みたいなのがどうしてこんなに美味しい物を食べられるんだろう。これは何かの間違いでは、、ただ、今本当に幸せだ！

冗談抜きで食べながら泣いていた。

世の中にはたくさんのカレーがあるけれど、
松屋のオリジナルカレーはその名の通り、普段は気付かない小さな幸せに気付かせてくれる魔法のスパイスが入った世界で唯一のオリジナルカレーだ。

カレーを食べたあとはスパイスの余韻に浸りながら、カレーが少しついたスプーンでお味噌汁を軽くひとかきして流し込む。この時間も格別です。

今でも松屋は僕の大事な食卓です。